武蔵大学の茶野教授にインタビューを行いました

武蔵大学の茶野教授にインタビュー 大学教授・研究者・プロフェッショナルへのインタビュー
インタビューを受けていただいた方
茶野氏
  • 武蔵大学 ​経済学部
  • 茶野努教授
  • 金融論・リスク・マネジメント論が専門。ERM(統合リスク管理)、銀行・保険会社のガバナンスと効率性、金融ビッグバン(規制緩和)、コモディティ市場の金融市場化、消費者金融サービス業などの幅広い分野で研究を行う。近年は宗教と経済学(倫理・信頼・公平性・幸福の観点)やリスク回避度の性差という新たな研究テーマにも取り組んでいる。主な著書としては『保険と金融から学ぶリスクマネジメント』(中央経済社、2024年)、『基礎から理解するERM』(中央経済社、2020年)、『日本企業のコーポレート・ガバナンス』(中央経済社、2020年)など多数。保険論、金融機関経営論、ポートフォリオ論、金融工学といった講義を担当し、金融リスク管理の実務と理論の両面から教育・研究活動を展開している。

現在の日本の金融機関は次の金融危機に耐えられる体制が整っているのでしょうか?

回答が難しい設問です。金融機関ではERM(統合リスク管理)態勢が整備されており、2008年のリーマンショック以降は「リスクアペタイト・フレームワーク」も導入されました。これは、事業戦略・財務計画を達成するためのリスクアペタイト(進んで引き受けようとするリスクの種類と量)を明確化し、経営管理やリスク管理を行う枠組みです。

茶野教授茶野教授

一方で金融危機への対応は、それをどれだけ事前に察知し、的確に回避できるかによります。枠組みがあっても運用するのは人なので、各々の金融機関のリスクカルチャーやスキル・人材などが大きく影響します。

茶野教授茶野教授

金融の専門家が考えるリスクとは何で、なぜ確率が重要なのでしょうか?

フランク・ナイトは、世の中でおこる不確かな、危険な事象を「不確実性」と「リスク」に分けて考えました。その違いは発生確率をわれわれが認識できるかどうかです。前者はできません。地震は人類にとって、いまだに不確実性です。発生確率を認識できるものがリスクであり、想定損害額×発生確率でリスクの大きさは数量化できます。

茶野教授茶野教授

年齢や性別でリスク回避度に差はありますか?

はい、あります。われわれが行っている保険加入や資産投資に関する実証分析では、男女間に明確な差があります。すなわち、女性は男性に比べてリスク回避的です。所得等々の様々な要因をコントロールしたうえで、統計的にみて女性の方が保険料支払い額が有意に多く、また株式など危険資産への投資比率は有意に低いです。また、年齢が上がるごとにリスク回避度は高まりますが、40歳過ぎをピークに低下します。

茶野教授茶野教授

企業のリスク管理と個人のリスク管理の違いは何でしょうか?

企業と個人のリスク管理の相違は、リスク許容度の違いに顕著に現れます。企業は資産規模、資金調達力が大きいので、分散投資などを行い、リスクテイクをすることが可能です。1度や2度の失敗でも破綻することはあまりありません。しかしながら、ビル・ゲイツのような超のつくお金持ちを除けば、個人は資産規模、資金調達力に乏しいので、そもそも分散投資に限界があり、1度や2度の失敗で破綻してしまう可能性も高いです。

茶野教授茶野教授

個人が自分の資産を守るために、最低限知っておくべきリスク管理の基本は何でしょうか?

前の質問とも関係しますが、自分のリスク許容度をよく認識し、適切にリスクテイクする、裏返して言うとリスク回避することが必要です。企業であればデリバティブズを使いながらリスクヘッジできますが、個人ではそれが難しいためです。あと、短期売買(トレーディング)はコストがかかり、またリスクも高いので、長期保有投資を心掛けることが重要になってきます。

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